第2章 初めての異動
1人残されたアンナは、未だ冷めない熱と戦っていた。
(え、え、私いまスモーカーさんに頭ぽんぽんされたよね!?)
先ほど起こったことを思い出すが、さらに熱が集まってしまい、やってしまった…と後悔する。
幸いもう少しで日暮れなので、辺りには涼しい風が吹いており、それがこの熱を冷ましてくれると信じたい。
(スモーカーさんもああいうことするんだな……)
正直、驚きの方が大きかった。
海軍に入隊してから、じいちゃん以外の男の人に触れられたことなんてなかったから。
でも不思議といやだとは思わなかった。
むしろ嬉しい、そう思ってしまって____
(ダメダメ!相手は上司だよ?)
アンナは雑念を消すように頭を横に大きく振って、帰路を急いだ。
「これまとめるの手伝え」
あの出来事から数週間過ぎたある日の事。
スモーカーさんの部屋に呼び出されたかと思えば、彼が指さす先には大量の資料の山。
ざっと見積もって1000枚以上あるだろう。
「…この量を今から、ですか?」
時刻はとうに夕方に差し掛かっている。
もう少しで定時で上がれると思って浮足立っていた先での、まさかの指令だった。
「あァ」
「……いつまでです?」
「明日までだ」
「てことは今すぐ取りかからないとじゃないですか!絶対今日中に終わらないですよね?!」
「…だろうなァ」
「たっ、たしぎも呼びましょう!2人でやるには終わりが見えなさすぎます!」
「あいつは今休暇中だろ」
「あ」
スモーカーさんの言葉でたしぎが2週間の休暇をとっており故郷に帰省中だったことを思い出し、アンナの目の前が真っ暗になる。
ほかの海兵たちはこういう事務作業は得意ではないし、そうなると2人でこの作業をやらなければならない。
私ははあ…と諦めるようなため息をついたあと、目の前に積み重ねられている資料の一部手に取った。
「人使い荒すぎですよほんと……」
「なんか言ったか?」
「ナンデモナイデス……」