第1章 プロローグ
「……寂しいなあ」
ぽつりと本音を呟く。
エースとルフィは17歳になったら海に出ようという約束をしていて、兄のエースは17歳の誕生日まであと一週間と少ししかない。
私とエースはお互いのことを認識する前からの付き合いだ。
いわゆる幼なじみというもので、
初めて会ったのは私が3歳のときだった。
ガープのじいちゃんが私をここコルボ山に連れて来てくれて、まだ赤ん坊だったエースと出会った。
小さいころはまあ生意気な悪ガキだったのに、ルフィという『弟』の存在を得てからか随分と良識のある少年に成長して、姉としては喜ばしい限りである。
昔からことあるごとに喧嘩ばっかりして心配が絶えなかったのに、あと少ししたらその心配も出来なくなると思うと何とも言えない喪失感を感じてしまっていた。
「おいおい味噌汁、沸騰してるぞ!!」
「あ、やっばい……」
ドグラの声で我に返ると、目の前には今にも鍋からこぼれそうになってしまっている味噌汁が。
アンナは慌てて火を消して味噌汁の味を確かめると、いつもより少ししょっぱい。
「…ちょっとお水足しとこ」
誰にも聞こえないような小さな声でアンナは呟いた。
「ごちそうさま!!今日も旨かったぞ姉ちゃん!」
「それはよかった。今日もこれから修行?」
「いや、今日はエースと高台の町の方に……」
「おいこらルフィ!」
ルフィの口をエースががばっと両手で抑え込むと、ははは…と笑いながらこっちを見た。
「なにー?隠し事?」
「な、なんでもねえよ!いつも通り修行だ!!」
「ほんとにー?ま、エースはあと少しで海に出るんだし、大けがだけはしないように気をつけなよ」
「分かってるよ!…じゃあな」
ばつが悪そうな顔をしながらエースは半ば強引にルフィを引っ張って家から出て行った。
ルフィ本人は不満そうな顔をしていたけど、兄には逆らえないのかしぶしぶついて行く。
そんな2人の姿を手を振りながら見送るのが私の日常である。
「さてと…後片付けしますかね」
アンナはふうと一息ついた後、目の前のテーブルに並んでいる大量の食器をいそいそと運び始めた。