第2章 初めての異動
シャンクスとの別れの日
ルフィに自分の麦わら帽子を託した後、アンナのところにも来てくれた。
「お前にもいろいろ世話になったなァ。ルフィのこと、頼んだぞ」
「うん!……シャンクスも元気でね?」
「ああ」
そういっていつものように頭をがしがしと雑に撫でられる。
これで最後なんだなあと思った時、ふと鼻の奥がつーんと痛くなる気がした。
俯いたまま顔を合わせないようにするアンナの様子に、シャンクスが優しく笑った。
「なんだ、俺のために泣いてくれんのか。…ほんと可愛いやつだな」
「な、泣いてなんかないもん…!」
アンナは強気な態度で返すが、虚勢を張るほど目からは涙がこぼれ落ちていく。
シャンクスはその涙を優しく拭うと、懐から何やら紙を取り出して私の手に握らせる。
「お前にこれをやる。いつかこれをたどって会いに来い。
だから最後にとびっきりの笑顔を見せてくれよ、な?」
「……約束だよ?」
「ああ!男に二言はない」
その時はそれが何なのか知らずに受け取ったのだが、あとからじいちゃんに聞いたところ『ビブルカード』というものらしい。
それは別名「命の紙」とも呼ばれる白い紙で、人間の爪や髪の毛などから作られており、その人間のいる方向に向かって動くという特性を持っているのだという。
そんな大事なものを私に託してくれたんだ…と当時は嬉しかったが、海兵になった今ではほかの誰にも気づかれぬように必死に隠し続けている。
仮にも四皇の一人、そう簡単には捕まりはしないだろうが、これは大事なシャンクスとの繋がりであるため、アンナは海軍に入った後でも大事にしていた。
でもまさかたしぎの口から彼の名を聞くことになるとは思わなかったので、アンナは知らないふりをして会話を続けた。
「そしたら、いつかその人たちに勝てるような剣士になるのが目標だね!」
「…!ふふふっ、アンナの目標は大きいですね」
「あっ、バカにしてる~?けっこう真剣なんだけど」
「……それならそろそろ鍛錬を再開しますか?」
「うっ…。や、やるよ!厳しくお願いします!」
あはは…と楽しそうな笑い声が、朝の静かな庭に響き渡った。