第1章 プロローグ
エースとの喧嘩から早一週間がたち、とうとう旅立ちの日になってしまった。
今日の天気は旅立ちにふさわしく清々しいほどの冬の晴天で、まるで天気でさえも彼の出航を歓迎しているように思えた。
ちなみにあの日からエースとは会話という会話をしていない。
ただ喧嘩したからと言って毎日ご飯を食べにくるのは変わらないので、顔を合わせることには合わせるのだが、「いただきます」だとか「ごちそうさま」といった挨拶に返事するぐらいに留まっていた。
さっきも最後の朝食を食べた後かけられた言葉も、
「……ごちそうさま」
の一言だった。
最終日だからもしかしたら仲直りのチャンスかなと思ったけれど、なんて切り出したらいいか分からなくて、そのままエースは出航の準備で出て行ってしまった。
あと数時間後にはエースはこの島からいなくなってしまう。
ずっとこの時を待っていたはずなのに、いまの私たちの状況からすれば、むしろあまりいい状況ではないのは明らかで。
このまま別れるのは後味悪いなあと思いながらも、お互いに意見を譲れないので仲直りしようにもできない。
深いため息をこぼしながらも、今日もいつものように山賊たちの大量の洗濯物を干さねばならない。
「……一緒に海に出れたらよかったんだけどね」
それが叶ったら、どんなに幸せなことだろう
もし私たちがただの幼なじみだったら
素直にエースの手を取れたかな。
でも私はその手を取れない。
だってこれ以上一緒にいたら、
きっと私はエースへの想いを我慢することが出来なくなる。
そうなったら困るのは彼だから___
『自由』を求める男に、これ以上の束縛はない
干したばかりの洗濯物が冬にしては暖かい風になびかれ、ぱたぱたとはためく。
それをアンナは見つめ、残っているものを干し続けるのであった。