第1章 プロローグ
「………信じねェ」
「え?」
彼の口から聞こえたのはまさかの拒否する一言で、アンナは思わず聞き返してしまった。
「だから信じねェつってんだろ!お前、俺に嘘ついてるだろ?幼なじみ、ナメんなよ?!」
「…っ噓なんてついてないし!」
「じゃあなんでそんなツラそうな顔してんだよ!?」
そうエースに言われるが、今は鏡もないので自分の表情を確認する術はない。
もはや彼の言っていることがハッタリなのかもしれないと思い、アンナは強気に言い返す。
「そんなの気のせい!いつも通りだよ!私は!」
するとエースは、ちっと小さく舌打ちして自分の髪をぐしゃぐしゃとかき下を向いた。
しばらくそうしていると急に顔をあげて立ち上がり、私の肩をがしっとつかむ。
「……とりあえず、俺と海に出るかの答えは当日まで待つからちゃんと考えとけよ」
「だから私は海軍に……!」
「それとその指輪はお前にやったものだからな。
ほかの誰かにやったら怒るからな!」
アンナの言葉には耳を傾けず、自分の言いたいことだけ告げて、エースはそのまま森の中へと消えて行ってしまった。
残されたアンナの横を夜の潮風が吹いて、ぶるっと寒気が背筋に走る。
立ち上がることもなく、ただまっすぐ夜の海に視線を落としていた。
「最初で最後の嘘ぐらい聞いてくれたっていいじゃない……」
アンナの独り言は闇夜に溶けて、儚くも消えていった。