第1章 月から
不毛すぎる、不毛でしかない
彼は物理的ではない
存在を証明できない
ここに、いない
自分は関わることが出来ない提供物から一喜一憂し時に深く深く傷つけられる
閉じていた目を開けるとわずかに湿ったまつ毛がわかる
何度こうやってまつ毛を湿らせても
何かが変わることは無い
ただ、ただ
彼に起こる何かを見ていることしかできない
不毛すぎる
暗くなった室内で視界に入るそれ
販売という形で自分のものにしたその物理的な存在、物理的な姿
思い浮かぶ形容詞を口にして心をときめかせたのは事実だけれど
体勢を変えて、向きを横にしもう一度目を閉じる
涙がまくらに流れないように指でそれを拭おうとしたとき
何かがそこに触れた
触れたような気がした
なに?
既に明かりを消してから時間は経過している
だから目を開ければその慣れた目でそれが何か確認できる
けれど何故か
何故か目を
開けてはいけないような気がした
これはなんだろう
なにがそうさせるんだろう
考え続けるけど答えが出ない、答えが、ない
横向きに寝ている側のふとんの端
何かが乗っているようなそこだけ沈んでいるような
どうしよう、目を開けるべきか
きっと普通ならそんな状況は恐怖なのだろう
けれど何故か、恐怖よりなにかもっとそれを覆すもの
動いた
沈んだそこが動いたような気がした
まるでそこにある何かが動作をしたような