第2章 初任務
星月side
『今日も…月が綺麗ね…』
異国語の「あいらぶゆー」を文豪の夏目漱石が訳したと言われている言葉だ。
といっても、夏目漱石は本でしか聞いたことないし、本当に言ったのかはわからないけれど…。所詮風の噂だ。
異国語である「あいらぶゆー」は、本当は愛しているという意味らしい。
そこから派生したように、海が綺麗ですね、とかの言葉もつくられ始めた。下らないけれどね。
…私は名家の娘だ。政略結婚しかすることなどできない。
名家で恋愛結婚など、ご法度に近かった。でも、私は罪を犯してしまった。
______ブチッ
『……やだ…縁起が悪いわね…』
今日もまたいつものようにこっそり抜け出した。だけれど、歩いている途中に、鼻緖が切れてしまった。
これじゃあ歩いて帰れない。どうしようかと途方に暮れる。
「…あの、大丈夫ですか…?」
しゃがみ込み、下を向いていた目線をあげると、陶器のような白い肌の童顔の男性の顔が見えた。
黒い髪の毛は、夜の闇と同化しているり黒い生地に金色の釦がある学生服に、黒い学生帽。
…私と同い年か、少し上か…。
はあ、と私と彼の吐く息は、冬だけあって白い。まるで時が止まったように、辺りは静まり返る。
「あの…?大丈夫ですか…?」
少し彼に見とれてしまっていたのか、羞恥で頬が赤くなる。…仮にも婚約者がいる身だ。
私は気を引き締め直す。
『あ…鼻緒が切れてしまって…家に帰れないんです…』