第1章 分岐点 ※
櫻乃side
『私は…絶対に死にません。』
気味が悪いほど綺麗な満月に、手を翳す。そしてギュッと握った。
指で掌を触れば、女の手とは思えないほど硬い。それが、結霞にとっては勲章のようなものだった。
『いや…死ねない理由があるんです。』
守らなければならない、尊い人たちが。…この手から、一体どれだけの人の命がこぼれ落ちて仕舞うのか、私にはわからない。
この先、どれほどの理不尽が待ち構えているのかも、想像したくもないものだ。
だけれど、生きなくてはならない。人に悲しい思いをさせてはならない。
自分と同じような境遇に立たせてはならない。鬼という存在を知らずに、老いてほしい。
「…気をつけてほしい。」
『…はい。お館様』
呼び方を、耀哉様からお館様へと変えた。あくまでも、耀哉様呼びは鬼殺隊員としての私ではないときだけ。
『…今日は、もう寝ることにします。明日に備えて』
「うん。そうだね、おやすみ」
『おやすみなさいませ』
三つ指を畳につけて頭を下げると、私は自分の部屋へと戻る。長い廊下を歩きながら、ふと縁側に着いた。