第1章 分岐点 ※
『只今戻りました』
ビュン…と風が強く靡いたかと思うと、白い砂利が敷き詰められた産屋敷邸の庭に結霞は戻ってきた。
本当に、つい先日まで一般人の子だったのかと疑いたくなる程だ。
今日は調子がいいのか、縁側で結霞が帰ってくるのを待っていたお館様。
その隣にはあまね様がいる。
二人共、いつものように口元に微笑を浮かべている。
「おかえり結霞。どうだった?挨拶はできたのかい?」
『ええ、お話もしてまいりました。』
「それはよかった。さあ、お上がり。湯呑みをしたら夕餉を食べよう」
『はい。ありがとうございます』
お館様には感謝しかない。身寄りのない私を快く迎えてくれる人など、そう簡単にいないだろう。