第1章 分岐点 ※
櫻乃side
「……助かった」
先程の、鋼鐵塚蛍らしき人は薬湯を飲ませるとすぐに意識を戻した。
なんとも、刀を打つことに没頭しすぎて調子が悪くなってしまったんだとか。
里の人からも、一度集中すると昼夜問わず刀を打ち続けるらしい。
『いえいえ…ところで貴方は鋼鐵塚蛍さんでしょうか…?』
「俺は…鋼鐵塚…だ…」
『やはりそうでしたか…。すいません。鋼鐵塚さんのとっておきの刀を私が…』
「アンタが…櫻乃か…まあ、刀は使わなきゃ意味がない…。その刀も喜んでる」
クイッと顎を私の腰につけた刀の方へとやる。…鋼鐵塚さんは口下手なのかもしれない…。
『そうですね、ありがとうございます。』
「ここに…泊まっていくのか…?」
『いえ、鋼鐵塚さんへのご挨拶を終えたので屋敷の方へ戻ろうかと』
「手間かけさせて…悪かったな」
『大丈夫ですよ。…では、私はここでお暇しますね』
私はすくっと立ち上がると一礼して、その場を離れた。行きのときに道のりは覚えたから、あとは戻るだけ。
さっきの隠の人…今枝さんにはさきに帰ってもらった。
夜は鬼が出るから厄介だし…。あと、耀哉さんたちに迷惑かけられないから早く帰らなきゃ。
私は足に力を集中させ、跳び上がった。なるべく足音を立てないように努力しながら、屋根の上をつたって帰った。