第1章 分岐点 ※
麗羅side
「言えない事情があるなら仕方がないですね…。そうだ、僕が貴女に名前をつけてもいいでしょうか?」
言えない事情があるのだと勘違いをしたのか、心さんはそういう。
『…つけて…くれるの……?』
「ああ、…そうだな…………そうだ!今日から君は麗羅(うら)だ」
『麗羅…?』
「うん、いいかな?」
『…ありがとう…』
生まれて初めて与えられた名前に、高揚する。
だけれど……
『…なんで…心さんは…麗羅って名前に…?』
「…んー…それは内緒ってやつかな。」
ずっと保っていた紳士的な笑みとはまた別の、いたずらっ子のような笑み。私の心臓はドクドクとしている。
初めての感情に、少し戸惑った。
「また明日もここにおいでよ。一緒に話そう?」
『うん』
それから私は、毎日の日課のように寺の敷地の裏へと通った。
私のいる村からは遠いけど、いけば心さんが待っていてくれるし、何より私が会いたかった。
罪人の娘と名家の息子。釣り合わないとわかっていても、私は通い続けた。
でも、終わりは突然に訪れる。