第3章 倦怠期に喧嘩した七海との話
「父親の目の前で、その化け物を祓ったんです。気味悪がられて、家族や親族に捨てられました。それからは、先輩もご存知の通り高専に保護され、今に至ります」
この話を知っているのは、当時保護してくれた人たちと夜蛾学長だけ。
他の人に言って、贔屓されるのが嫌だった。
「……本当なら頭を撫でて、『よく頑張ったね』『よく我慢してきたね』って言うべきなんだろうけど、それは僕の役目じゃないからね」
先輩が含み笑いで視線を向ける先に目を向けると、そこにはいつもはきっちりと整えられている髪の毛は崩され、ワイシャツとスーツのパンツ姿の建人さんが息を切らして立っていた。
『どうして、ここに?』と思って、先輩を見てみたらスマートフォンのメール画面をチラつかせていた。
あぁ、先輩が連絡したのか、と納得しているといつの間にか近づいていた建人さんに腕を引かれて、その胸に飛び込んでいた。
「……さっさと、帰りますよ」
その声は、やっぱり怒っていて。でも、どこか安堵も含まれていた。