第3章 倦怠期に喧嘩した七海との話
「……先程は、申し訳ありませんでした」
急に立ちどまり、建人さんの背中にぶつかってしまったけれど、彼から飛び出た言葉はそれだった。
『どうして、貴方が謝るんだろう』『悪いのは私なのに』という思いが生まれては消えて、生まれては消えていく。
「貴女が甘えられない性格なのは、昔から知っていたはずなんです。……ただ、私はそんなに頼りないですか?」
言葉が、出てこない。そんなことあるわけが無い。
だって、貴方がそばに居てくれれば私はそれでよかったのだ。
ただ、隣に座って、頭を撫でてくれるだけで、その温もりだけで私は救われるのだから。
いや、それは私だけの話だ。きっとそれは、建人さんにとっては不安になる要因の一種なのだろう。
私にその気はなくとも、この人を不安にさせてしまったのは事実で。
「私も、すみませんでした。ちゃんと理由も併せて、説明すべきでした」
「私も、きちんとお伝えするべきでしたね。ずっも待っていたんですよ、貴女が話してくださるのを」
指先を握られ視線を上げると「指先、冷えてしまっていますね」と言い、その両手の平で包み込んでくれる。どうして、この人はこんなにも優しいのだろう。
「建人さんは、どうしてそんなに優しいんですか?」
どうしても、聞きたくなって聞いてしまった。