第3章 倦怠期に喧嘩した七海との話
父は恐怖に充てられたのか、それが視えているらしい。グチャグチャ、とそれは母の血肉を咀嚼している。
床を満たす母だった欠片や、生あたたかいそれが溢れ私の足を包んでいく。
私の唯一の理解者が、目の前で化け物に喰われている。それが、私の腸を煮えくり返すのには十分だった。
『どうして母を喰った!』
『どうして母を傷つけた、何故父を喰わなかった!』
『どうして私の大切な人を、奪った!』
そんな思いが溢れ、怒りに変換されていく。
身体の中心から、力が広がっていくのが分かる。床に転がっていた金属バットを握り、その化け物に向かって振りかぶった。
この時、皮肉にも呪力と術式が目覚めた。