第3章 倦怠期に喧嘩した七海との話
「何か、言った? とにかく、離してくれませんか?」
「は、ナメてんの?」
「汚らわしい手で触るな、って言ってるんだけど、聞こえなかった? ……今すぐ、失せろ」
「……っ、女だからってナメやがって!!」
男の握り拳が振り上げられても、私は目を閉じなかった。その男の瞳をただ見つめるだけ。
殴られようが、別に構わない。どう足掻いてもあの人とは、もう終わりなんだから。
「はぁーい、そこまでねー」
場違いな呑気な声がしたかと思えば、その男の拳は誰かに受け止められていた。……まぁ、この声と話し方だけで誰かは容易に想像がつくけれど。
「何だよ、テ、メェ……」
目の前の男たちが、たちまち顔面蒼白になっていくのは正直、気持ちよかった。
それは、そうだろう。身長190センチ超えの長身で、しかも白髪の目隠しをしてるのにも関わらず、イケメンであることが滲み出ている男が物凄い威圧感でにっこりと笑っているのだから。
「……五条先輩、どうしてここに?」
「んー、それ聞いちゃう? まぁ、僕としては別にいいんだけどさ。……で、こいつら、どうする?」
よく見ると五条先輩の男の拳を握る手には血管が浮かんでいる上に、その彼は激しく暴れていた。