第3章 倦怠期に喧嘩した七海との話
面倒くさいことになった。実に、面倒くさい。
「ねぇ、お姉さん! 可愛いねえ、一人でこんなところ来て何してるの?」
「歩き疲れない? いいトコロで僕たちと、休憩しない?」
繁華街から程遠い場所にも関わらず、いかにも『食えそうな手頃な女』を探している男数人の足音とそのお誘いの言葉を背中に、無視を決め込んでスタスタとネットカフェに向かって歩みを進める。
本当なら腕を捻りあげたり、撃退するす術はあるんだけれど、下手に騒ぎを大きくしたくはなかった。
まぁ、結局は相手するのが面倒くさいだけなんだけれども。
「ねぇ、強気なところも素敵でいいけどさぁ。無視はあんまりじゃない?」
不意に男のうちの一人が、私の腕を掴んで引き寄せる。
あぁ、もう面倒くさい。こっちは一人になりたくて、ネットカフェに向かってるだけなのに。
建人さんから言われた言葉が、頭の中でループする。
ただ、私は彼の邪魔をしたくなかっただけなのに。
この仕事の辛さを知っているからこそ、我慢してきただけなのに。
……それなのに、話すらも聞かずに、あの言い方はあんまりじゃないか。
でも、でもね。どうしてだか、好きで好きで、仕方ないんだ。
あの人だったら、こんな汚らわしい男みたいな真似はしない。必ず黙って、そばに居てくれる。
そして、きっと強がりな私が話せるまで待ってくれるんだ。