第2章 瀕死になった主人公と五条(ネームレス)
「……よかった」
「よかった、じゃないんだけど」
先生が私の額にデコピンをする。
「……少なくとも、僕はよくなかった」
先生が身を乗り出して、デコピンをした場所に口づけを落とす。
「……先生? どうしたの?」
次に、まるで確かめるようにその大きく温かい手のひらが、私の輪郭を包み込む。
「本当に、生きてるんだよね? ドッキリとか言わないよね?」
「何、言ってるんですか。生きてますよ」
先生の手の甲に触れると、少しだけ震えたのが分かる。
「私の温もり、伝わってます?」
「うん……」
先生を不安にさせてしまったらしい。この慢性的に人員が不足している呪術界だ。それも仕方ない。
「あと、お見舞い来れなくてごめんね。準備に思いのほか、手間取っちゃって」
「準備、ですか?」
先生は、私の頬を撫で、その目隠しを取る。
綺麗な綺麗な空色の双眼が私を、愛おしそうに見つめていた。
そして差し出されたのは、大きな真っ赤な薔薇の花束だった。
「これ108本あるんだよ。意味、分かるよね?」
前、野薔薇と話したことがある。薔薇の本数で変わる、その意味の話を。
「……先生の馬鹿。色々飛ばしすぎだよ」
涙が、止まらない。