第2章 君たちが笑えば、私は幸せだと。そう思っていた。
後半は文字が何かで滲んでいたが、そんなことが書いてあった。
片目から、雫が零れる。
なんだよ、これ。
全部、俺の勘違いだったってのか?
俺を守ってくれなかった筈の、クソ親父のお気に入りだと思っていた姉が、隠れて俺と合歓を守ってくれていただって?
そんなこと、あっていい筈がねぇだろ。
何も言わなかった姉に対する怒りが湧き上がるが、そもそも全ての元凶は……。
「っ、テメェが何も知ろうとしなかっただけだろうが……っ!」
自分自身への怒り。あいつが狙われる可能性だって、充分に考えられた筈だろうが!
「このジュラルミンケースのパスワード……」
「……あ?」
合歓が嗚咽を漏らしながら、こう言う。
「っ、私と。お兄ちゃんの、誕生日足した数字だったの……!」
その言葉に、息が止まる。
「ふざけんなよ、あのクソ姉貴……っ!」
何が、俺と合歓を見捨てた奴だ?
こんなもんのパスワードが、俺たちの誕生日足した数字だ?
そんなことをするくらい、俺たちを想ってくれてたってことだろうが!
「……合歓」
「なに?」
俺は涙を手で拭うと、スマートフォンをポケットから取り出しながら合歓に問いかける。
「まだ、間に合うかもしれねえって言ったら。どうする?」
「えっ」
「俺のチームメイトが、お前に似た女を見かけたらしい。まだ、姉貴と決まったわけじゃねえが、お前はどうしたい」
これは賭けだ。俺一人だけでは決められない。
あんな姉貴のことを一番心配していたのは、合歓だったからだ。
「お兄ちゃんは?」
「……は?」
「お兄ちゃんは、どうしたいの?」
まさか、俺に振られるとは思わなかった。
「私はたとえ、その人が違う人だったとしてもいいから。少しでも、お姉ちゃんに会える可能性、お姉ちゃんに謝れる可能性があるなら、会いたいよ」
合歓の瞳は限りなく澄んでいて、その表情も覚悟を孕んでいた。
「そうだな。俺も、会って謝りてえな……。あと、礼も伝えねえとな……」
「そうだね」
合歓は涙をハンカチで拭い、俺は画面をスワイプさせてリダイヤルする。もちろん、相手は……。
「おう、銃兎。一つ、頼みてえことがある。もう旧姓なのかもも分からねえが、碧棺 ○○。そいつの情報、集めてくれや」
俺は、もう逃げねえ。