第2章 君たちが笑えば、私は幸せだと。そう思っていた。
左馬刻視点
「なんだってんだよ……」
銃兎の野郎に、合歓以外に家族は居ないかと聞かれた時、一瞬何も考えられなくなった。
正直言うと思い出すだけで、胸糞悪くて吐き気がする。
俺らを傷つけるだけのクソ親父に気に入られ、大事にされてきた血が繋がっていると思うだけで殴り殺してしまいたくなるほど恨んでいる、俺らの姉貴だった女、○○。
銃兎はヨコハマでアイツに似た女を見かけたらしいが、よく俺のシマに土足で上がり込めたもんだ。
俺たちを守ってくれやしなかった癖に、一丁前に俺たちのポスターを見て幸せそうな顔をした、だ?反吐が出る。
『母さんじゃなくて、お前が死ねばよかった』
『もう俺たちの前に姿を現すんじゃねえ』
お袋の葬儀の時、俺はヤツにそう吐き捨てた。
あまり表情が変わらないヤツの表情が少しだけ、ほんの一瞬だけ歪んだ。
それでも慈愛を秘めた笑みで、ヤツは『それでも、私は二人のことが大好きだから。……それだけは覚えておいて』、そう言って事実上の絶縁状態になった。
合歓には案の定、『何でお姉ちゃんに酷いこと言うの』と、怒られた。
確かに、言いすぎたかと思ったことも、多少なりはある。
だが、あのクソ親父に気に入られていたヤツを。俺たちを守ろうとしてくれなかったヤツを、どうしても許せなかった。
不意に、俺のスマートフォンが着信を知らせる。相手は、合歓だった。
「おー、どうした」
『……お兄ちゃん……今すぐ、家に帰ってきて……』
「……泣いてんのか? 何があった」
着信に出てみれば、合歓は鼻声で泣いているのは明白だった。
『っ、お姉ちゃんの部屋に置いてあった、ジュラルミンケースのパスワードが、分かって……』
ヤツの部屋に置いてあった、パスワードがついた鍵がついたジュラルミンケース。
どうしても、と言って合歓が持ってきたんだが、パスワードが分からずずっと部屋の隅においてあったはずだ。
「……ちっ、分かった。今から行くから待ってろ」
『……うん』
通話を切って、車のキーを引ったくる。
「……なんだってんだよ……」
俺は合歓が待つ家まで、車を走らせた。
泣いてる妹を放っておくなんて、できやしねえんだよ。