第2章 一話 : 紛れもない記憶と現実
聞き慣れてしまった、落ち着いた声。
『生まれる前から知っていた』、その人の声。
ポン、と肩に手を添えられ、その人は私の顔を覗き込む。
逆光でその奥の瞳は見えないが、オーバル型の眼鏡に、 紫色の髪の毛。
「顔色があまりよろしくないようですね」
その人物を瞳にうつした瞬間、脳裏を過ぎるのは走馬灯。
長年愛したとある作品と、『推し』としていたキャラクター。
そして、私自身の『最期』。
『ああ、私はテニプリの世界に死後転生していたのか』と、そこで理解してしまった。
しかも、何が悲しいか。
この声を掛けてきた彼、 柳生比呂士とはクラスメイトな上に、その中でも趣味が合うためかなり話をする仲だった。
そして、私の生前推していたキャラクター、その人だった。
頭がパンクしそうになった私は、柳生君の顔をしばらく泳ぎまくる視線で捉え続けた挙句、『何か言わないと』と頭を回転させたのがいけなかったのか意識がそこでプツン、と切れた。
柳生君が少し焦ったように私の名前を呼ぶのが、薄れゆく意識の中で聞こえた気がした。