第3章 二話 : どうしても無理です!
全快して授業に参加できるようになったのは、午後一の授業からだった。
実は、私のクラスは3年A組。
そう。渦中の人物、柳生 比呂士くんとはクラスメイトのため、どうしても学校がある日は顔を合わせなければいけないのだ。
そもそも彼と話すきっかけになったのは、一般向けに開催されている小説のコンテストに出すための原稿をうっかり図書室に忘れてしまい、彼に見られてしまったこと。
それからよく話す間柄になるのに、時間はそんなにかからなかった。
控えめに教室の扉を開くと、
「模部さん、目が覚めたんですね!」
私の存在に気がつくや否や、そのメガネをキラキラと光らせて歩み寄ってくる、彼。
今までなら、「今日もメガネが一層輝いていらっしゃる」と、思う程度だったけれど、今はなんか、こう。全体的に輝いている気がした。後光が差す、っていうやつ?
笑顔も素敵だし、その声も、誰に対しても敬語なところとか、実はそこまで紳士じゃないところとか、全てが輝いて見える。
オタクフィルター、恐るべし。
……少し、待って欲しい。
私、今まで柳生くんとどうやって話してたっけ?
オタクフィルターが過去を完全に塗り替えて、どうやって話していたかすら、覚えてないんですけど……!?
「……模部さん?」
「あっ、えーと……。うん、大丈夫! あと、朝はありがとうございました! 助かりました!」
「え、ええ。どういたしまして」
こんな感じで、大丈夫かな?
「そ、それじゃあ……」
軽く手を挙げて、自分の席に座る。
やっぱり無理です!!!!
目を見ておしゃべりなんて、出来ません!!!!
どうして、今まで普通に話せていたのかさえも不思議です!!!!
ドキドキと暴れる心臓を、今すぐにでも止めたかった。
そんな私の後ろ姿を、柳生くんがなんとも言えない表情で見ていたことなんて、私だけが知らなかった。