第6章 好きな人。
五条side
ようやく呼吸が落ち着いてきたのか、はふぅ…と長い息を吐いた。
「ど?少しは落ち着いた?」
震えも収まり、背中を撫でていた手を止めて顔を覗き込む。
『はい、、、すいません…』
蚊の鳴くような声を振り絞り、申し訳なさそうに眉を下げた顔は、よほど苦しかったのだろう、目尻には涙が溜まっていた。
間一髪だったね…。
山積みの書類を放り投げて来て正解だった。
「なんかさぁこうビビッと感じたんだよねー。色んな意味で飛んで来て正解だったよ〜。」
ヘラッとした笑みを貼り付け、わざと明るく振る舞う。
なるべく意識させないようサッと指を伸ばし彼女の涙を拭い取った。
「もう大丈夫だよ。」
一瞬、ピクリと肩を震わせたが、ぎこちないながらも笑顔を見せる。
その姿がまるで獣に怯えた小動物のように見えて思わず喉奥を鳴らした。
「ククッ、コレはちょっと恵に同情するね。」
『・・・え?』
どうやらここには小動物を狙う獣が何匹かいるみたいだからね。
「いーや?何でもないよ。
けどそんなに無防備だと狼に食べられちゃうよ、ってハナシ。」