第10章 じゅう
「なまえさん、デザートどうしますか??」
「ん…今日はお腹いっぱいかも。そろそろお暇します」
「そうですか、また来てくださいね」
「お会計」
「萩原さんから頂いてますよ」
ニッコリ笑った梓さんに、果て?と首を傾げる。
「先ほど、なまえさんを口説いていた方です」
「なんで?」
「んー、アピールとか、ですかね?」
「私に?」
「多分」
慌てて、小指を見る。
…。
「ないないないない」
「わからないじゃないですか!」
小指を見て、安心するなんて今までで初めてだ。
あんなに望んでいたはずの、運命の相手がいないことに酷く安心するなんて…。
「いくらいい人でも、私の運命の人じゃないから」
「え……」
「…っ、なーんちゃって。まだ、早いみたいです。そういうの、わたしには」
「なまえさん」
「次、はないと思うので。また萩原さん?いらっしゃった時に、よろしくお伝えください。じゃあ。また」
ぺこっと頭を下げ、ポアロを出る。
今日も、むかつくほど清々しい晴天で。
人が1人居なくたって、普通に時間は進んでいる。
それを毎日実感しながら生きている。
ーぽすっ
「わっ、」
膝の辺りに衝撃、慌てて下を見れば小さな男の子。
「あ、えっと…ごめんね」
泣き出されたら困ると、目線を合わせて声をかける。
「んーん、僕も前見ないで歩いてたから…ごめんなさい」
小さいのにしっかりした子だと、感心する。
大きな黒縁眼鏡にジャケットまで羽織って、今時の小さい子ってオシャレだななんて思う。
「怪我はないですか?」
「あ、うん!平気っ、お姉ぇさんよくポアロ来てる人?」
「ん?あ、うん。たまぁにね。どうして??」
「見かけた事ある気がしたから。僕、ポアロの2階に住んでるから」
ポアロの2階?
「毛利探偵事務所!」
「へぇ…って、あの?!眠りの小五郎の?!」
「知ってる??」
「うん!いつもニュースで拝見してます。って言っても、そんなにテレビ見ないんだけど、たまに見るニュースにいつも映ってるイメージだなぁ」
眠りの小五郎さん、こんなに小さな子供がいるんだ。なんて、世間に対してあまり目を向けないものだから、少しだけ驚く。
「君も大きくなったら探偵さんになるの?」