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無色透明な赤い糸       【DC】【松田】

第10章 じゅう


 梓さんのパスタも、いつ食べても美味しかった。

 「美味しい」
 「ふふ、ありがとうございます。よかったです」

 カウンターに座ると、こうやって話ができるから嬉しい。

 「お待たせいたしました。日替わりランチです」
 「今日もうまそう。ありがとう、梓ちゃん」

 …聞き耳を立てるつもりはないのに。
 さっきから、どうしてこんなにこの人の声を拾うんだろう。

 もぐもぐと、咀嚼しながら考える。

 考えて食べてたせいで、1口目以降きちんと味わえずにもうあと2口で皿がまっさらになってしまう。

 …皿だけに。
 って、やかましいわ。

 もぐもぐっ

 なんて、ノリツッコミまでしちゃったから、あっという間にまっさらになってしまった。

 皿だけに。

 「ご馳走様」
 「ご馳走様でした」

 パチンと手を合わせるタイミングまで揃ってしまって、また目が合う。

 「はは、揃ったね」
 「そうですね」

 ほら、なんかやっぱり気まずい。

 「ねぇ」
 「…」
 「またここで会ったら、一緒の席にしてもいい?」
 「どうして」
 「君に似た子と以前会ったことがあってね、ゆっくり話せなかったのをさっき思い出したんだ」
 「似た子…って、ことは私ではないですよね」
 「警戒しないでよ、ただの一目惚れだから。
 梓ちゃんお会計お願いします」
 「はーい」

 椅子から降りて、会計へと向かうその人の背中をぼーっと見送る。

 …一目惚れって、そんな事ある?

 「口説かれてましたね」
 「なんなの、あの人」
 「悪い人ではないですよ」
 「どうして言い切れるの?」
 「困ってる人助けてるのよく見かけるので。…って、なまえさんには安室さんがいますもんねぇ」
 「は?!…え?!いやいや違うよ?!安室さんそんなんじゃないよ!まつ、…とにかく居ないから」

 無理に忘れようとしているつもりはないけど、たった短い時間だったとしても、忘れられないほどに焼きついた想い出をそんなに簡単には断ち切れない。

 ふとした瞬間に、胸に浮かぶのはやっぱり松田サンだけ。

 運命の相手って言うのは、こんなに重いものなのかと今更実感している。

 「安室さんもいい人だと思うんですけどねぇ」

 皿を下げながら言う梓さんに、確かに私の運命の相手が安室さんだったらどんなによかったかと思う。
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