第10章 じゅう
「松田サンがいたら、マウントでも取ってやろうって思ったんですけど、その前に安室さんがいたから」
「僕にマウントですか?」
「はい」
「ははは、君は本当に面白いな。そんなこと言うなら、僕の方がなまえさんよりも前から、彼らと長い付き合いですよ」
そりゃそうだ。
だって毛利さんのお家の下がポアロなんだから。
「盲点でしたか?」
「盲点でした」
「盲点ついでに、僕毛利さんの弟子ですよ」
「え?!有名人の?」
「ふふ」
戯けたように笑う安室さんに、完全に負けたと思ったけど、これ、なんの勝負?と、我にかえる。
「安室さん、肩書きありすぎでは?」
「嫌だな、自由に生きるのに必要なだけ」
ふっと、表情を作る安室さん。
夕陽と相まって、美しい。
「くっ、」
夕陽に透ける金が、風によってなびく。
イケメンって風まで味方にするのか。
「どうしたんです?」
「金ロ効果で、ときめいたんです。ベーコンと目玉焼き食べたい気分です」
「僕の城に来ますか?」
「なぞらえてる!知らんけど」
「ときめきました??」
「8割5部」
「ふっ、…あぁ。そうだ。明日ポアロに来ますよ、蘭さんとコナンくん」
「なんで!」
「コナンくんから先ほど連絡来たので。良かったらどうです?なまえさんも」
「行きます!」
「…よかった」
初めて見る表情。切ないような、安心するような、そんな顔で笑うから、なんだかむず痒い。
「どうしたんですか?」
「どうって?」
「安室さんが見たことない顔するから」
「まだまだ知り合って短いのに、全部の顔見せるわけないだろ」
「急に辛辣」
「なんて、冗談ですけど。…心配していたんですよ、松田がいなくなってから、全然泣かないから」
すんっと、その言葉で電池が切れるような気がした。
「泣くわけ、ないじゃないですか」
約束したもの。
「それに、あの時、安室さんが助けて来れた時、あんなに泣いたから…松田サンのための涙は空っぽです。
安室さんこそ、大丈夫ですか??」
「え?」
「目の下のクマ、薄らですけど…最近寝れてます?」
そっと手を伸ばそうとすると、拒まれた。
「えっと、ごめんなさい」
「い、いえ。じゃあ。僕はこの辺で」
「あっ、はい。じゃあ、また明日伺います」