第9章 きゅう
…いや、待てよ。
萩は同期の中でもモテる方だ。
なまえは経験少なさそうな方だし、コロッと靡いちまってもおかしくねぇって。
やっぱり断ろうと、口を開く。
「やっぱ、…って、もう行ったのかよ」
アクセルタイプじゃないくせに。
「あれ?」
聞こえてきた声に振り返る。
「なんだよ」
「いや、萩原来てたんじゃないかと思ってさ」
「帰ったよ、俺が余計なこと頼んだから」
むすっとして言う。
そんな俺を見て、こまったような顔で笑ったのは、萩原と入れ違いで入ってきた諸伏。
「入れ替わり立ち替わり、お前ら暇なの?」
「暇ではないよ。オレらの今の仕事、主にゼロのフォローだし」
「は?」
「忙しいからね、ゼロ」
「どう言うことだよ」
「オレたちね、みんなゼロに助けられたんだよ。
班長は…別枠だけど」
椅子を出してきて座る。
「松田、ゼロからどこまで聞いてる?」
「どこまでって…」
「…わかった。なら、順を追ってはなすよ。松田もオレ達と同じ枠だから」
「さっきから、枠ってなんだよ」
一瞬黙り込んだ諸伏が、表情を変える。
コイツ、こんな顔もできんのか。
…俺が知らないだけで。
「ことの発端は萩原が巻き込まれた事件。
…あれは、表向き萩原が殉職したってことになってるけど、実際はそうじゃない」
「…」
「爆発が起きた時、ゼロは別件でその場にいた。ギリギリで被害を免れたゼロが、瓦礫と共に吹っ飛ばされた萩を最初に見つけたんだ」
…そんな話、今まで聞いたことなかった。
「ボロボロで酷い姿だったらしい、当たり前だよな。だけど、表立って助けるわけにも行かなくて、殉職ってことになったらしい」
「そんなめちゃくちゃな話、」
「最初は、ゼロだってそんなつもりなかったんだよ。普通に助けようとしてた。
…だけど、上からの指示で、…。
瀕死状態で、助かるかどうかもわからない。今後使えるかどうかだってわからない、見捨てろって」
「っ、」
「ちなみに瀕死状態は萩原とオレと松田の3人一緒だから。上に見離されたのも一緒。
ゼロが必死になって、ギリギリの状態を助けてくれたんだ。
だから、同じ枠」
「嘘だろ…」
「伊達も、張り込み明けで事故にあったんだけど、それもタイミングよく、ゼロが居合わせた」