第9章 きゅう
目が覚めたのは数週間前。
はっきりと声が出るようになったのは、割と最近。
やっと少しずつ筋力も戻ってきて、少しずつ体に馴染んでるような気がしている。
「回復力えげつねぇ」
「まぁな」
「もっとゆっくりでも良かったのに」
「早く戻して、お前殴んなきゃなんねぇし」
「え、殴られるの?俺?」
暇を見ては顔を出すのは、もう2度と会えないと思った幼馴染の萩原研二。
「つーか、こんなとこに来てばっかで良いのかよ?」
「俺は陣平ちゃんのお守り仰せつかってるから〜。それに暇だろ、こんな白い空間に1人でいるの。
色々考えちゃうしなぁ」
「…まぁ、良いけどな」
「俺がさ、…目が覚めたの、陣平ちゃんが爆発に巻き込まれた後すぐだったんだよ」
タオルをしまいながら言う。
「もっと早く目が覚めてれば、陣平ちゃんがこんな目に遭う必要なかったんだよな…」
そんな相棒の姿に、イラッとしてボフッと枕を投げつける。
「わっ」
「言っとくけどな、俺がこうなったのはお前のせいじゃねぇ。お前が巻き込まれた時点で、目覚めてようがなかろうが、俺は仇を討つんだよ。
それよりも、防護服着てなかったのにキレたんだっつーの。
後何より、諦めたことも腹立つ」
「それを言ったら、松田、お前もだろ」
不貞腐れたように言うから、思わず笑ってしまった。
「俺は諦めてねぇよ」
「嘘つけ、俺は佐藤ちゃんに聞いたんだ。ったく、ゼロに聞いてお前の状態間近で見て、肝が冷えたよ。
松田も…、自分のこと大事にしろ」
…お互い様って事か。
「悪かったな」
「俺も、悪かったよ」
ぽふっと、萩原の手によって枕は俺の頭の下に戻る。
「あぁ、で?」
「で?とは」
「降谷ちゃんから聞いたよ、可愛い子に世話になってたんだって?」
…。
そうだ、そうだった。
アイツらに会えたこととか、萩が生きてたこととか、自分のリハビリとか、そんなんですっかり抜け落ちてた。
「…やっちまった」
「何が?」
「早く行かねぇと」
「ちょっと、陣平ちゃん!?」
勢いよく、ベットから出ようとしたせいで、転びそうになるところを、萩が支えてくれたおかげで、転ばずに済んだ。
「くそっ、」