第9章 きゅう
「…って、どこまで着いてくるんですか?」
ホットミルクを飲み干した彼女を、寝室まで見送り…というか俺も入る。
「ちゃんと寝るのを見届けようと思いまして」
「平気です」
「僕が平気じゃありません。なまえさんが、ちゃんと寝るのを見届けたいので」
ニッコリ(何も言わせないぞ)と、微笑み、彼女が布団に入ったのを見届け、そっと布団を肩までかける。
ぽんぽんと、程よいリズムであやすようにしていると、段々と瞼が落ちていく。
「おやすみ、いい夢を見てくださいね」
どうか、今日が彼女のトラウマになりませんように。
ーーーーー
ー…
彼女が眠って1時間ほどした後、俺はその家を後にする。
部下の元に車を走らせ、そこに着く頃には当に24時を過ぎていた。
「お疲れ様です」
「あぁ。…悪いな、こんな時間まで。下がっていいぞ」
「はい。ありがとうございます」
一息ついて、重厚な扉を開ける。
部屋の主に繋がれた管に、そして紡がれる心臓の音に、惹き寄せられるように、そっと部屋の中へ入る。
そっと、鍵を閉める。
ベットの上で穏やかに、見慣れたような懐かしいようなその顔を見て、自然と気が緩む。
所々痛々しい古傷は残るものの、整った顔は相変わらずだ。
「おい、早く起きろよ」
なんて時間にそぐわないことを思いながら、そっとその近くまで椅子を近づけ、座る。
「開口1番、お前はなんて言うんだろうな…」
ベット端の方を少し借り、ベットに軽く寄りかかる。
突っ伏して目を閉じれば、今までのことが走馬灯のように蘇ってきた。
…本当に長い時間だった、ここまで来るまで。
そうだ、このこと、
あいつらにも知らせないとな…。
ーーーー
ーー…
side 松田
ここ…どこだ?
俺は何してたんだ?
「ん…」
そうだ、俺、
「っ、」
上手く力がはいらねぇ。
つーか、体が重い。
重力がすごく重い。
言葉にしようにも、上手く出せねぇ。
なんとか、動こうとすると布が擦れるような音がする。
視線の端で、きらっと何かが光る。
「っ」
今はまだ音にならない、笑いが溢れる。
少しだけ顔を動かせば、それが月明かりに照らされた見慣れた金だとわかる。