第9章 きゅう
具材を切り炒めたり煮たりしながら、こだわって作ったラーメンがようやく完成した。
「いいにおい」
「お腹空きました?
「ぺこぺこです、」
わざと手をかけ作ったのは、この為だ。
食卓について、そっと手を合わせる。
「いつもは、料理するとお腹いっぱいな気がするんですけど、今日は違うみたい」
「僕が魔法をかけたから」
「魔法?」
「ふふ。秘密です。…なんてね、僕もよく気晴らしに料理するんです。大量に作って、部下に押し付けたりしてます」
「気晴らし」
「何かに集中すると、気がまぎれるでしょ」
彼女の手が止まる。
「ほら、早くしないと伸びちゃいますよ」
こんな日にラーメンなんて、少し意地悪かもしれない。
けど、まぁ…我ながら上手くできたと思う。
「ふーっ、ふーっ、」
結局彼女はいつもよりも少ない夕飯を、長い時間をかけてやっと完食した。
「…ご馳走様でした」
「完食して偉いです」
そっと頭を撫でる。
「子供扱い、やめてください」
「すみません。お風呂どうします?僕と入りますか?」
「1人で入ります」
「残念。じゃあ、どうぞ。作ってる間に溜めておいたので、すぐ入れますよ」
ニッコリと笑うと、不服そうな視線が向けられる。
「上がったら、ホットミルク入れてあげますね」
「はい」
彼女の移動する音をききながら、洗い物を済ませ、手を拭くと見計らったかのように電話が鳴る。
「はい」
部下からの電話だ。
『例の件で、』
自分の口元が緩むのを感じた。
「…わかった。後で向かう、そのままお前は待機していてくれ」
『了解』
通話終了を押した後、こんなにトントンと進むとは思ってなかっただけに、ホッとしたような複雑なような何とも言えない気がしてくる。
「さてと」
彼女が来るのを待つ間、ホットミルクをつくる。
少しだけ手を加えていい香りが漂ってきた頃、彼女は浴室から出てきた。
「…って、びしょ濡れじゃないか。ドライヤーは?」
「…タオルドライでいいかなって」
「よくない。そこ座って」
カップに完成したホットミルクを注いで、そっと彼女の前に置き、ドライヤーを持ってくる。
「風邪でもひいたらどうするんです?」
「おおげさな」
「ほら、ミルクもちゃんと飲んでくださいね」