第9章 きゅう
「守れなくて、ごめんなさい」
さすっていた手が彼女によって掴まれ、そっと外される。
「…なまえさん」
彼女の手は信じられないほど冷たく、弱々しい。
「私は、大丈夫ですから。元々、見えてたのが不思議な現象なんだし、夢でも見てたのかなって、そんな気持ちなんです」
「…」
「ただちょっと疲れちゃって。…だって、そうでしょ。
松田サン容赦なく漫画本買うんだもん。玄関の、見ました?」
「はい」
「重くて、ついた瞬間力尽きちゃって。
最後の気力振り絞って、寝室に着いたんです」
「迎えにいけず、すみません」
「あ、いえ。そういう意味じゃないんです。
むしろ、気にかけていただいてありがとうございます。
………でも、もう大丈夫ですから」
彼女の大丈夫が引っかかる。
「…」
ゆっくりと、顔を上げた彼女が口角を上げるのを見て、松田と彼女の約束が過ぎる。
「大丈夫なら、…よかった。夕飯にしましょう、貴方のリクエストのラーメン作りますから」
「あ…、今お腹すいてなくて」
「"大丈夫"なんですよね?」
少し強引に、尋ねる。
「…っ」
「君が大丈夫でも、僕は大丈夫じゃありません。気になって仕方がない」
彼女をちゃんと、引き留めておかないといけないから。
「僕にも、"約束"がありますから。嫌だと言っても、君に構います」
「…強引すぎ、」
「僕の恋人はこの国だから、君も僕の恋人の一部です。支えるのは当たり前でしょう?」
少し緩んだ表情に、そっと胸を撫で下ろす。
「…お腹、すいたかもしれません」
「うん、すぐ作りますね。もう少し休みますか?」
「一緒に、作ってもいいですか?」
「もちろん」
立ち上がる彼女を支えながら、一緒に部屋を出る。
「漫画、どんなの買ったんです?」
「松田サンが気になるって言ったの、全部とまではいかなかったんですけど」
「片付け手伝うので、後で一緒に読んでも?」
「はい。…安室さんも漫画読むんですね?」
「人並みには」
キッチンについて、2人で支度を始める。
「ラーメン、どこにしまったっけ…」
「なまえさん」
「ん?」
冷蔵庫から取り出した袋に入った生麺を見せる。
「麺は間に合わないので。
どうせなら、スープから作りましょう?」