第8章 はち
「夕飯はラーメンがいいです」
「…ラーメンですか。いいですね、とびっきりの作りますよ」
…なんだ、今の間は。
「やっぱり聞いてなかったろ?」
「聞いてたってば、松田サンしつこい。お腹空いてるんだもん」
「お弁当足りなかったですか?」
「ううん、足りたけど、お腹空きました」
「ふふっ」
「おい」
「はい?」
「泣くなよ?」
「お腹空いたくらいじゃ泣きませんよ?」
怪訝そうな顔するけど、その顔したいのは私の方だ。
どんだけ食いしん坊キャラだと思われてるの、わたし。
「絶対、なにがあっても、泣くなよ。誰にも慰められんじゃねぇぞ」
「なんの話?」
「やっぱり、聞いてなかったのか?」
「な、!聞いてたって」
「なら良いけどよ」
この時聞き返しておけば…なんて、後の祭りもいいとこだ。
「特に、アムロには慰められんじゃねぇ。金輪際な」
「酷いですよ、金輪際なんて。ね、なまえさん」
「いやいや絶対、泣きませんよ」
「約束」
すっと後部座席から伸びてきた手。
…伸びてきた小指に私も小指を絡める。
「変な松田サン」
こんなことで約束なんて、馬鹿馬鹿しい。
そう思いつつもできるだけ体を後部座席の方に振り返らせる。
「俺がいるときにしろ」
「なにを?」
「察しろ」
「…なまえさん、苦労しますね」
「全然わかんないんですけど」
この時、松田さんがなにを思ってたかなんて知らない。
「まだ、わからなくていーよ。お前馬鹿だから」
「失礼なやつ。だから金髪蒼眼じゃないんだよ」
「黒髪グラサンでもいいじゃねぇかよ」
「ワイルドさ演出したいのかもしれないけど、松田サン正反対だよ?グラサンとったら可愛すぎるし」
「可愛いは嬉しくねぇ」
もっと、違うこと言えばよかった。
離れない小指に、少し照れ臭くなって。
平然そうな松田サンに、負けたくなくて言ってみる。
「じゃあ、カッコ良い」
「…」
サングラス越しに目が合う。
パッと指が離れて、
私もなにを言ってるんだろうと、全身の血が昇るのを感じる。
…いや、ピュアか!て!
ばっと前に向き直る。
熱い、ほんと熱い。
風邪ぶり返した??
んなわけあるか、
全く、なに言ってんの私。アホなの?