第6章 ろく
「大丈夫だよ」
「なまえさん、おはようございます。体調は、どうです?」
「ばっちり寝れました。ありがとうございます」
そう言って、キッチンの方に向かう。
「わぁ、いい匂い」
湯立つ鍋に、豆腐となめこ。
「ふふっ」
「どうしたんです?」
「なーんか、デジャブだなぁって。お味噌汁ですよね、」
「正解です!お見事」
大袈裟に言う安室さん。
「やったぁ」
なんて、私もそれにのってガッツポーズをする。
ふと、視線が気になってその先を見ると、松田さんが私たちを見て切なげに優しく笑っていた。
「どうしたの?松田さん」
「…いや、なんでもねーよ。ただ…」
「ただ?」
「元気なってよかったって、思っただけだ」
少しだけ感じた違和感に、この時の私は気づかなかった。
「松田、すごく心配してたからな。もうすぐできるから、なまえさんはあったかくして、松田の相手してやって」
「な、相手ってお前なぁ」
「案外寂しがり屋なんだよ、僕となまえさんだけが仲良くしてたら、嫉妬しちゃうぞ?」
冗談まじりに安室さんが松田さんを揶揄ったから、すぐに纏う空気が変わる。
松田さんとキッチン前のカウンターテーブルの席に座ると、安室さんが手際よく作業してるのが見える。
「嫉妬なんてしねーよ!全く。ところで病院行く前に言ってた5巻どこにあんだよ」
「うーん、友達に貸したのかもしれないんだけど。実は、それが誰か覚えてないんだよね。明日にでも古本屋にでも行ってみようか」
「いいじゃねーか、最高」
「なまえさんは明日講義あるでしょう?まだ平日ですよ」
「アムロママ、厳しい」
「アイツは昔から真面目なんだよ。ま、講義の後でもいーじゃねぇか。
5巻読まねぇと、スッキリしなくて未練も断ち切れねぇぜ」
「すっかり少女漫画にハマってんじゃん」
「ついでにドラケンボールとWAN PEACEも買おうぜ。あと、猫夜叉も。半分までしか追えてねぇーんだよなぁ」
「キリないじゃん」
呆れながら言うと、安室さんが笑った。
「漫画ばかりじゃなくて、ちゃんと小説とかも読んだ方がいいですよ」
「やっぱり、アムロママだ」
「アムロママは口うるさくていけねぇや」
「誰がママだ」
「世話焼きで、満更でもねぇくせに」