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無色透明な赤い糸       【DC】【松田】

第6章 ろく


 両親の指に結ばられた赤い糸。

 私にしか見えないその糸が、2人の間に繋がれてるのが何より温かくて優しくて大好きだった。

 当時の私にはなくて、

 つい最近まで見えなかった糸。
 やっと繋がった糸。

 両親が築いてくれた家庭みたいに、

 私も普通で

 あったかい日常を作りたかった。


 何気ないまいにちに

 好きな人と
 好きなものを分かち合って、共有して。

 たまにお出かけして、

 色んなことを感じて。


 それだけでよかった。


 大恋愛の先の逃避行とか、

 お互いが苦しくなるような不倫とか、

 そんなんじゃなくて、

 何ともない普通の幸せでよかった。

 普通の幸せがよかった。


 《いただきまーす!》

 3人で囲む食卓。

 ほかほかの白いご飯、
 湯気のたつお味噌汁、
 みずみずしいお野菜、
 プルプルの目玉焼き、
 分厚い大きなベーコン。

 どんな高級なレストランのメニューより、
 両親と囲む食事のほうが美味しい。

 ……そんなに高級なとこ行ったことないけど。

 例え、高級じゃなくても、

 大切な人と食べる食事がどれだけ豊かで、
 幸せな時間で、

 美味しいと心から思えるものなんだって、

 きっとあの頃の時間が教えてくれてた。

 そんなことを、
 そんな大事なことを、

 私、ずっと忘れてた。

 食事だけじゃない、

 誰といるか、
 誰と過ごしたいか、
 誰と共有したいか、

 自分にとって、何が大切か。

 強がって

 傷つかないように殻を被って、

 私を遠ざけてたのは、周りだけじゃない。
 私も周りを遠ざけてたのかも知れない。

 なんて、

 …今更でも、やり直せるかな。

 『なまえ』

 背中を押すように、記憶の中の両親が笑う。



ーーーーー
ーー


 「ん…」

 ゆっくりと覚醒していく。

 そっと布団をめくって起き上がる。
 窓にはカーテンがもうかかっていて。

 ドアの向こうでは何やら音が聞こえる。

 のそのそっと、

 起き上がってドアへと手をかける。

 松田さんがテレビを見ていて、
 安室さんはキッチンに立っていて。

 いい匂い、

 「おい、起きて大丈夫かよ?」

 ドアが開いたことで、こちらを見た松田さんが大袈裟に駆け寄ってくる。

 
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