第6章 ろく
「コイツが気に食わなねぇやつだったのが悪い」
「人のせいにするなよ、これだからテンパは」
「なっ!!てめぇーっ、」
全くもって、アホらしい。
いつまでも続きそうな2人のやりとりに、目を瞑る。
安室さんの案外心地いい運転に、少しだけ眠気を覚える。
そうしたら、2人の声もだんだんとBGMになって、気付いたら意識が遠のいていく。
ーーーーーー
ーー
「ん…」
目が覚めると、いい匂いがする。
優しい音がする。
「ゼロ、なまえ起きたぞ」
キッチンに向かって声を掛けたのは松田さんだ。
「ここは?」
「病院から帰ってきて、今ゼロが夕飯作ってる。やっぱ、ただの風邪だってよ」
ぽんぽんと私の頭を撫でる手。
松田さんの優しい声。
「熱も下がったなら、心配ないって。よかったな」
「………」
「なんだよ」
「熱でたの、松田さんのせいですから」
「な、…わかってるっつーの、」
頭から離れた手を掴む。
触れられるうちに、触れておきたかった。
「わかってない」
「なぁ、なんで俺なわけ?」
「赤い糸の先が、松田さんだったから」
信じてなかったのに、
「だから、安室さんじゃなくて…松田さんじゃなきゃダメだったんだよ」
ぎゅっと力を込める。
「妬けますね、そんなこと言われると」
美味しそうな匂いが近づいてくる。
匂いと共にやってきた安室さんが、なんでもない風に言いながらベットの脇に寄せたテーブルの上にお盆を置く。
見覚えのない、1人用の土鍋。
「雑炊作ったんで、食べますか?」
ぐぅっとなったお腹に、2人と目が合う。
………まて。
落ち着いたら、この二人とんでもないイケメンだったことに気付いたぞ。
今お腹がなったとことか、
馬鹿みたいに気持ち拗らせて、
風邪ひいて看病してもらってることとか、
なにこれ、なんて乙女ゲーム?
下がったはずの熱がまたぶり返しそうだ。
パタンと長座体前屈みたいに布団の上に顔を隠す。
いや、どんな恥ずかしがりかただ私。
ここは、
できるヒロインは布団の中に潜るやつじゃないのか。
などとぐるぐる考えていると、背中に優しい温もり。
「気分、悪くなっちゃいました?」