第6章 ろく
「…なぁ、」
「ん?」
「タバコは、もう吸うなよ」
「…どうして?」
「自分で言ってたじゃねーかよ、喉が痛くて最悪だって。…俺の香水、ゼロに頼んで持ってきて貰えよ」
「でも、」
「次タバコ吸ったら、末代まで祟るからな?」
「松田、だけに?」
「ぷっ、ははっ、やかましーわ!」
…タバコは、吸わない。
もう絶対、吸わない。
松田さんと、約束したから。
ー…ピンポーン
「誰か来たみたいだぜ?」
「うん、」
ゆっくりとベットから降りて玄関へ向かう。
私の後ろから、いつもみたいに松田さんがくっついて来て、私はそれだけでホッとしていて。
「足元気をつけろよ」
「わっ、」
「ったく、気をつけ…」
言われたそばから、転びそうになる私に反射的に松田さんが手を伸ばす。
そのまま地面にゴッツンコすると覚悟を決めたのに、衝撃はいつまで経っても来なくて。
「ばーか、マジで転けるなよ」
さっきまで本物の幽霊みたいに、私の部屋のものであっても掴もうとした掌は空を切っていた筈だ。
…私にも触れなかった筈だ。
「ありがと、松田さん」
転ぶ前に、グイッと引き上げてくれた。
「ふ、珍しく素直だな。ほら、お客さん帰る前にドア開けてやれよ」
「うん」
数歩進んで、ドアを開ける。
「すみません、なまえさん。起こしてしまっ……」
私を見て、固まる。
「安室さん?」
…正確には、私の斜め後ろを見て。
「安室さん、どうしたんですか?お仕事じゃなかったんですか?」
…まさかね。
私が尋ねると、アイスブルーの目と合って。
「…っ、すみません。ええ、仕事だったんですけど、もう大丈夫です。今日はあと休みなので、あなたのこと病院に連れて行こうかと。
熱はどうですか?」
「あ、えっと…、だいぶ体は楽になりました。ご迷惑おかけしてすみません、」
「中、入れていただいても?」
「あ、はいっ!どーぞ、」
がちゃんとしまったドア。
安室さんを招き入れたものの、なかなかスリッパを履かない。
え?玄関口でいいの?
「あの、…なまえさん」
「はい?」
「あなたの後ろに立っている男のことなんですが」
ぎぎっと後ろを振り向くと、松田さんと目が合った。
「みえるんですか!?」