第6章 ろく
「松田さん、…っ、松田さんが、もう帰って来ないって思って、…会いたかった。
心臓潰されたかと思うくらい痛かった、…変なの、こんな気持ち初めてで、自分でもわかんなくて。
目についたタバコ買ったの。本当はご飯買おうと思ったのに、買ったら、松田さん帰ってきてくれるかもしれないって思った」
「お前…」
「安室さんに教えてもらった。これ、松田さんが吸ってたやつだったって。
だけど、さっきタバコ吸ったらすごく不味くて、喉も痛くて最悪で」
「…」
「私、松田さんのことが…」
…言いかけて、辞めた。
初恋が幽霊だなんて、不毛すぎる。
赤い糸はもう切れてみえなくて、それなのに私の言葉が松田さんをこの世界に、繋ぎ止めてしまうとしたら…、
「…お前には、感謝してる。…お前が居なかったら、俺は多分ずっとあの箱の中にいて、つまらない毎日送ってたきがする。
時間だけが過ぎて、ダチの行方も分からないまま。
たまにくるカップルの写真の中に写って脅かすくらいしかやることも無くて、」
「そんなことしてたの」
「やることねぇのに、目の前でいちゃつかれたら溜まったもんじゃねぇだろ?」
などとドヤ顔をしている。
「で、続けるけどよ。…だから、なんつーか、こうやって第二の人生を過ごしてるみたいで楽しかったよ」
「…」
「でも、お前の気持ちには応えられない」
「うん、」
「俺は、そもそも人を卒業してるしな。
…けど、まぁ。お前にあって、ちょっと悔しくなった」
「?」
ぽふっと私の頭を優しく撫でた、松田さんの手のその感触が戻ったような気がした。
「あん時俺、少し諦めたんだよ。
もう、萩もいねぇーしな。俺の命一つで市民のこと守れるならって、カッコつけて」
「…」
「何回も目の前にうかぶんだ。あの時あのコード切っときゃよかったかなって。閉園後の観覧車の中でさ。真っ暗な中で、思うんだよ」
そんなの、切なすぎる。
「…だから、お前は俺にとって恩人だな」
ニカッてはにかんだ松田さんの顔がなぜか強く焼きついた。
「俺、今ならわかるわ」
「なに、」
「お前から、離れられなかった理由」
すっと、指切りするみたいに小指をもちあげて、少し動かす。
「そして、俺がここにいるわけも。あと、どのくらい居られるのかも」
「え…」