第6章 ろく
翌朝、目が覚める頃には頭がすっきりしていた。
体を起こすと、見覚えのある上着が布団の上からかけてあって、昨日のが夢じゃなかったんだとまた涙が出そうになる。
ふと、サイドテーブルに置いてあったメモに目がいく。
松田さんから聞いていた通りの性格を表すような、綺麗で丁寧な字だった。
「あむろさん……」
『急に仕事が入ってしまったので、帰ります。
鍵はポストに入れて置きます。
食欲がありそうなら、冷蔵庫に適当に入れておいたのでたべてくださいね。』
その字があったかくて、優しくて。そっと、抱きしめる。
「…何が、アムロサンだよ、」
そんな声に目を開ける。
ガサっと音がして、私の足もとに行儀悪くあぐらをかいている。
見慣れた姿のはずなのに、随分と懐かしい。
「あ…」
「気にいらねぇ。目の前でいちゃつきやがって、声は聞こえねぇし、お前は泣くし、何なの、お前。あてつけ?」
サングラスを外し、口を膨らませてる。
「悪かったよ、お前のこと置いていって。だからって急にシャットダウンはないんじゃねぇの?」
「っ、」
まだ熱に侵されてるんだろうか。
手元に視線を落としても、見慣れたはずの赤い糸がないのがその証拠だろうか。
「しょうがないだろ、俺だって男だぜ?
女に見せたくないことの一つや二つや三つや五つ、あるに決まってんじゃねぇか。
締め出し食らったって思って玄関の前で反省してたら、ゼロにあんな風に連れて来られるお前見て、俺がどんな気持ちしたとおもってるんだよ。
だいたい、お前の家のものは全部触れてたと思ったのに、どうして玄関のドアだけ触れねぇし、通り抜けられねぇんだよ。
対俺用の結界でも貼ったわけ?それとも札の類?」
ポロポロって落ちてきた涙に、慌てふためく目の前の幽霊に、私の心がまた灯る。
「な、なんだよ!?どっか痛むのか?!熱?はわかんねぇ!お前の体温感じねぇんだよ、前みたく!
泣くなよ?なぁ、おい」
「まつ、」
「あぁ?」
「帰ってきたの、」
「…帰ってからも何も、ずっと一緒だったろうが。何言ってんだよ?」
その返答にぎゅっと胸が掴まれるような思いがしたの。
「お前が離してくれた時に、他の奴らのこと探しにいって…結局会えなくて、その日のうちに戻ってきたぜ?」