第5章 ご
「松田は、…もう、亡くなったんです」
安室さんが、泣きそうな慈しむような眼で私を見ている。
「松田から聞いてると思いますが、僕の同期は僕を含めて5人いるんです。
萩原と、松田と、伊達、それから僕の親友の、ヒロ」
静かに聞いてると、ちょうどいいタイミングでゼリーが運ばれてくる。
「みんな、志半ばでなくなりました。ほんとうに、突然。
だから、君がもう居ないはずの松田の名前を呼んで、僕の名前を呼んだ時、少なからず僕は驚いたのと同時に、情けなくも気持ちが揺らいでしまった。
だから、聞き出そうと思った。あいつの話をどこから聞いたのか、なぜ今なのか。
もうすぐ、あいつの命日だったから」
「…そうですか、全員…。
松田さんが聞いたら、悲しみますね」
「どうかな。…まぁでも、だからこそ僕はこの国を守るために、生きていかなきゃいけないんだ、あいつらの分も」
ゼリーのカップが空になって、安室さんはわたしのおでこに貼ってあった冷えピタを変える。
貼ってあったんだ、冷却シート。
「少し落ち着いたら、病院に連れて行きますね。横になって休んでください」
私が横になると、布団を掛けてくれる。
「君が昨日話してくれた時、僕は、そんな作り話をって、とても腹が立った。
それこそ、何かで松田のことを知って、そこまでして僕の気を引きたいのか、ともね」
「な、」
「仕事上、ハニートラップなんて日常茶飯事ですし。仕方ないんです。疑わないと、足元を掬われる訳にはいかないから」
サラッと私の髪を撫でる。
「……でも、松田を思って泣く君を見て思った。君は、本当に、松田と、過ごしたんだろうなって。
身を焦がされるほど、短くても暑くて濃い時間を」
その手がすごく優しい。
「僕もたまにあるんだ。たとえば、仕事がうまくいかなかったとき、具合が悪いとき、妙にあいつらのことを思い出す。
全て手放したくなる日だってある。最近なんて眠れないほどだ。眠れないから、仕事をする。
仕事に集中すると、嫌なことを考えなくてすむしね。もちろん、僕の場合は自暴自棄になってるわけでもないけど」
この人は、ものすごく強いひとだ。
同時に、たぶん脆くて、よわい。
私よりも…。
そんな目をしている。