第5章 ご
「当たり前でしょ!!すぐ、消してください。あなた昨日倒れたんですよ!僕の目の前で!何度熱が上がってたと思うんですか?!わかったら安静に寝てください!返事!」
「は!はい!」
差し出された携帯型の灰皿に、それを押し付ける。
ざんねん、もう、消えてしまった。
私がタバコを消すと満足そうにわらって、
「立てますか?」
と聞いてくる彼は昨日とは別人みたいだった。
「はい、」
といいつつ、ふらついてしまい転びそうになると、彼の方にぐいっと引っ張られる。
「何やってるんですか、もう」
「あなたこそ、」
「それは、あなたが寝るまできっちりと教えてあげますよ。全く、昨日から胃に穴が開きそうだ!」
そういいつつ、軽々とお姫様抱っこをしてくる。
「ひゃっ」
「あなた、そんな声も出せるんですね」
急に高くなった視点に、振り落とされないようぎゅっと首元にしがみつく。
少し歩いて、ゆっくりとベットの上に私を下すと、熱を測ってくださいと、これまた見たことのない体温計を渡される。
「あの、」
言われるがまま、熱を測る。
「どうしました?着替えます?」
「ちがくて!違和感が仕事してないので、もう脳内がパニックなんですけど」
「騒げる元気が出てきたってことですね。おめでとうございます」
といいつつ、手に持っていた袋をガサガサしている。
「話が通じないんですけど」
作業を止めず、何かしてる。
「通じてますが?あぁ、鳴りましたね。貸してください…37.6か。食欲はありますか?ゼリーとヨーグルトとプリンどれがいいですか?」
うちにそんなのあった?
「じゃ、じゃあ、プリン」
そういうと、ため息をつかれた。
「プリンは作る過程でミルクが含まれてるのでおすすめできませんね。病院から帰ってきてから食べましょう。ゼリーで我慢してください」
「じゃあなんで聞いたんですか?!」
「はい、あーん」
プラスチック製のスプーンで一口大にされたゼリーを、口元に運ばれる。
「いいですか、なまえさん」
もぐもぐと咀嚼しながら、少しだけ目線の高い彼を見上げる。
「…はい」
一度手を止めて、私に言い聞かせる。
「僕は赤い糸なんて信じません」
なんでその話を今って、思った。