第5章 ご
水面に反射する月や星が、すごく綺麗だった。
吸い込まれそうなほど、穏やかだった。
「松田さんの、サングラス見たい…なんて」
この橋を越えたら、もう家なのに、力尽きてしまった。
欄干に体を預けてしゃがみ込む。
急な吐き気とめまいがして、
このままいっそ生きるのを諦めて仕舞えば、…。
彼と同じ世界を生きれるのだろうか。
それとも、未練も何もない私には無理なのかな。
「はぁっ…、はぁっ…」
息がしずらい。
陸なのに、深い水の中にいるみたいだ。
例えば、この柵の一本が取れて、実際に落ちたらもっと楽になれるのだろうか、
…と想像して、柵の間の暗闇に手を伸ばす。
「じんぺー…さん、」
「おい!大丈夫か?!おい!!しっかりしろ!!
…なまえ!!!」
叫ばれた名前に、ゆっくりと顔を上げる。
視界が潤んで、よくわかんない。
頭もぼーっとして、よくわからない、
「まつだ、さん…もどって、きてくれたんだね、」
うまく口も回らなくて、私と反対に冷たい体に触れたくて手を伸ばす。
目も髪型も、よく、見えなかったけど、それでも知ってる温もりに思えた。
ふっと体が持ち上がって、浮遊感をかんじる。
目を閉じていいような気もして、
全身を預けるように、眠りについた。
もう、全部忘れたかった。