第1章 いち
その日から数週間後、無くしたネックレスはやはり見つからず、あのサングラスの人とはあれっきりで、なんの変哲もない毎日を送っている。
今日は外に出る気になれず、たまたまつけたテレビから流れてくるニュースを聞き流しながら、お気に入りの本を読んでいた。
本に記された内容は、セリフを暗記するくらい頭に入っていた。
そのせいか、いつもは周りの音など気にせず没頭してしまうはずなのに、ワクワクよりも先にニュースの音がバッチリと耳に入ってきてしまう。
いまいちうまく集中出来ないのだ。
かと言って、表紙を閉じるのも癪でページをめくっている。
『続いてのニュース…速報です!』
ピタッと指を止める。
観覧車が爆発したと、それに警察官が1人、巻き込まれたと。
焦ったように、それでも淡々とアナウンサーが伝える。
私には関係がないことなのに、冷や汗がたらりと流れる。
なぜか、視線を上げられない。
喉が異様に渇く。
思い出したのは、ネックレスをなくしたあの日のこと。
足が薄くなって、作業着をきたあの人。
私に話しかけてきたあの人も、思えば昔ニュースになってた。
マンションで、爆弾を解体中に…って。
タイムリーだったから、記憶に残っただけだって。
いや、数週間はタイムリーって言わないかもしれないけど。
怖くなって、テレビを消す。
音がなくて余計胸が騒ぐから、本を閉じて外に出ることにした。
いつもの本屋へと向かう。
結局、あの空間が1番落ち着くから。
いつもと変わらない街の喧噪をききながら、やっぱりあのニュースが頭を巡る。
速報が流れても、誰かがこの世界から消えても、街は変わらないんだと、痛くないんだと時間が進むのを感じる。
「あれ…」
いつも開いてるのに。
【都合により、休業中】
「そんなぁ…」
トボトボと引き返そうとした時、冷蔵庫の中身が空っぽなことを思い出して、そのまま買い物に行くことにした。
街を歩く人達を横目で見ながら、よくもまぁこんなに人が溢れてるのに絡まないで進めるものだと感心していたのは一体いつまでだったか。
『おい、待てよ!』
風にのって、聞こえた声に振り向く。
あの日の人なら、逃げる準備をしておかなければならない。
こんな日にまで、追いかけられたくない。