第1章 いち
夕方になり、時報が聞こえる。
こんな場所にでも音は届くのかと思いながら、どのくらいの時間そこに潜んでいたかなんて分かりもせずに、大通りに顔を出しそっとあたりを見渡す。
「ふぅ…」
もう、流石に追いかけてきてないみたいだ。
ホッと一息ついて、胸元をさすったときに違和感を感じる。
「…ない」
肌身離さずつけていたネックレスが、ない。
…いや、待てよ。
今日時間なかったからって、ポケットに入れたハズだ。
鞄だったかもしれない。
「やっぱりない…」
血の気がひくのをかんじる。
お守りのような物だったのに。
最悪だ。
走ったからだ。
足も微妙に痛いし、無くすし、せっかく本を読んで満たされてたのに。
きた道を戻ろうか。
夕暮れに得策ではないか。
明日朝イチから探そう。
…だめだ、明日は朝から学校があるし。
とほほ、と思いながら足を進める。
トントンと肩を叩かれ呼ばれ、振り向くと作業着を着たお兄さん。
「っ、」
『なにか、探し物?』
人懐っこそうな笑顔に、一瞬気が緩む。
「ロケットの、ネックレス落としちゃったみたいで」
『へぇ、どういうの??』
「金色の、…っ!!」
ふと視線を落とした時、ひゅっと息をのむ。
「っ、で、でも!大丈夫です!家に置いてきたのかもしれないですし、」
逃げろ、と、脳内で警報がなる。
『そうなんだ、見つかると良いね』
良い人そう…だったけど。
心臓が大きくなり始める。
「し、失礼します!!」
あの人、話しかけられちゃいけないヒトだ。
普通にまぎれてたけど、普通に話しかけられちゃったけど、
寒気が止まらない。
とうとう、そんなものまで視えるようになってしまったのかと、我ながら嫌になる。
幽霊と、話してしまった…なんて、誰に言ったって信じてくれないだろう。
とんだ、厄日だ。
思えばそこは何年か前に、ニュースになっていた場所だ。
警察官の、…。
じゃあ、あの人もしかして…って、考えるのはよそう。
肝の冷えるようなそんな出来事に、無くしてしまったネックレスのことは思考からすっかり抜け落ちていた。
この日が運命の日だったとも知らずに、ただ早く今日という憂鬱な一日が終われば良いと願っていた。