• テキストサイズ

無色透明な赤い糸       【DC】【松田】

第5章 ご


 もしかして、帰ってくるかなって思ってた。

 淡い期待をしていた。

 少しの間一緒にいたんだから、少しは気にかけてくれるかなって思ってた。

 泣きすぎたから、きっと涙が枯れてしまったんだろう。

 もう、涙が落ちてこなくなった。

 玄関の床のコンクリートも、色を戻して、すっかり乾いてしまった。

 変な座り方をしていたからか、足の感覚はもうない。

 ぐうってなったお腹の音に、そういえばまだ食べてなかったと思うのと同時に、こんな時でもおなかは減るんだと変な感じがする。

 少しふらつきながら、立ち上がって埃を払う。
 こんなところに座っていたから、少し汚れてしまったかもしれない。

 白い半袖のティシャツに、デニム生地のショートパンツ。

 まぁ、いっか。

 鍵だけを持って外に出れば、朝日が登っていて直射日光で目が痛い。

 少し歩いた先で、財布を忘れたことに気づいたけど、戻る気にはなれなかった。
 今更帰ったところで、寂しくてどうにかなりそうだ。

 こんな時に限って、携帯すら持つのを忘れてしまったけど、まぁいいかと他人事のように思う。

 そもそも、連絡を取る相手なんていないし。

 だけど、このどうしようもない空腹をどうしようかと、ポケットを探れば500円玉が入っていることに気づく。

 ラッキー、

 こんな時に限って、神様は見捨ててはくれない。

 なんて、罰当たりか。

 徐にとった鍵のところに、たまたま500円硬貨を置いてたんだろう。
 そういえば、少し前に着払いで頼んだ宅配のお釣りを、そのままにしていたような気もする。

 もう少し歩けば、コンビニに着くだろうとまた歩き出す。

 さっきまで顔を出していたはずのお日様が、雲に覆われてきてだんだんと、辺りが暗くなってきた。

 雨が降るのかもしれない。

 傘はないけど、まぁいいや。
 雷さえ鳴らなければ。

 ぽた、

 ぽた、ぽた、


 あぁ、ほら。降ってきた。


 その雨から逃げるように、コンビニに入ればポップなメロディに迎え入れられる。

 おにぎりと飲み物でいいか、と適当に掴んでレジにむかったとき、ふとタバコが目に入った。

 少しだけレジが混んでいて、順番が来るまで待っているとたまたま見つけてしまった。

 …そしたら、もうダメだった。


 


 
/ 88ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp