第5章 ご
だって、松田さんずっと言ってたもん。
いくら、私がこの赤い糸へ思い入れがあっても、松田さんには見えないし、松田さんにはあの同僚の人がいて。
「慣れてきたから、ちょっとばっかし外にさ、」
「…」
「ヤニもだいぶ前に切れちまったしよー、タバコ買いにいったりしてぇしさぁ、」
「幽霊がタバコ、買えるわけないじゃん」
「まぁな」
「タバコなら、今から買いに行く?銘柄は?
外に行きたいなら、どこにでも連れてってあげる」
ペンをコトッと置く。
「…そう言うことじゃねーだろ」
「取れないよ」
「え?」
「松田さんも、"私から"解放してあげたいけど、できないって言ったの」
あぁ、でも。
「縁切り神社に行ったら、別かもしれないけど。
いってみようか、明日にでも」
黙り込んだ松田さんに、自分から出た言葉に私自身ギョッとしている。
こんなの、メンヘラすぎん?
「まぁ、…ありかもな。俺も成仏できるかもしれないし、」
心臓が抉られるような、気持ちがする。
「おっけー、調べとくよ。じゃあ、その前に最後の晩餐ってことで、贅沢に、…ケーキでも買いにいこー!ついでにタバコの銘柄も教えてよ、買ってあげる。なんてやつ?」
臭いものには蓋って、昔から言う。
傷つきそうになったら、そこは見ないようにして、考えないようにして、そうしていればいつかはスッと消えてく。
泣きたくなったら、考えないようにする。
辛いも悲しいも、思わないように必死で必死で別のことを考える。
「なぁ」
考えない、考えない、考えない。
「なぁって」
考えない、考えない、考えない。
「なぁって、聞いてる?」
ポンっと、肩に置かれた手。
そこから熱を帯びる。
おかしい、彼は熱を持つはずもないのに。
「あのさ!」
「わ、びっくりすんな。なんだよ、」
続く言葉は見つけられずに、勢いよく立ち上がる。
「ほら、いこ!」
要らない、要らない、要らない。
もう、必要ない。
消えてしまえっ、
グイッと、引っ張ろうとしたとき、やけに軽く感じて。
「わっ、」
「って、大丈夫かよ?立てるか?…って、は?」
「な、」
スカッと松田さんの手が、私の中を通り抜ける。