第5章 ご
「なぁ、」
「ん?」
「あれから、ゼロとの接触ないんだよな?」
「そうだね」
あの日、松田さんの同期と会った日。
あの日から、私ちょっと変だ。
「ならいーけどよー」
「聞かなくても、わかるでしょ。ずっと一緒にいるんだから」
相変わらず、私のベットの上で寝転がりながら、漫画本を読んでいる松田さんに、心を動かされないように必死になっている。
「松田さん、ここの問題」
「あ?」
だけど、松田さんも変だ。
なんだか、前より優しくなった。
「これは、ここが引っ掛け」
「そっか」
「なぁ、」
「ん」
意図せず、顔を上げた先で松田さんの綺麗な顔が、目の前にあって、なんだかとても暑い。
顔を逸らした、私の負け。
「お前さ」
こんなものに、熱など感じちゃいけないのに。
「そういえば、一人暮らしなんだよな」
その言葉で一瞬に熱が冷める。
いつか、聞かれると思ってたけど。
「何を今更」
冷静を保つために、ペンを持ち直せばそれ以上聞かれたくなくて、冷や汗が背中を伝う。
「いや、お前俺に色々聞いてきたじゃねーか」
「そうだね」
教えてもらった問題が、全然頭に入ってこない。
松田さんの気配が少し離れて、また、ギシッとベットが軋む音がする。
「友達も恋人も、俺が来てからっつーもの、本当に全然いる気配もねーし。大学もバイトも終わったら、直帰だろ?」
ドカドカと心臓が音を立て始める。
「…勉強が本文って、前に言ったの覚えてない?」
私には松田さんしか…、
「なら、両親は?」
「いるよ、心配しなくても」
「連絡とか、取んねーの?ほら、女ってそう言うのマメにするもんじゃねーのかな、って思ってさ」
「そういうもんかな」
「まぁ、個人差あるだろうけどな。で、そこで相談なんだけどよ」
「なぁに?」
「ほら、この漫画の5、6巻もねぇことだし、4巻の続きも気になって仕方ねぇしな?
やっぱり、こんなオジさんの霊がずーっっと着いてたら、そりゃやりにくいよなって思ってよ」
なんだ、
…だからか。
だから、優しくしてくれてたんだ。
「俺もさ、観覧車から降りて、もう幽霊としてここで生活してだいぶ経っただろ?」
言いたいこと、分かってる。
ちがう、分かってた。