第4章 よん
このすきに、と、手をつける前の料理に、後髪引かれるような気持ちがしたけど、これ以上あの耐え難い空気感にいる方が耐えられないと、五千円札を一枚カウンターにおいて、逃げるように出口へと向かう。
「お、代は!カウンターの上にありますので!失礼します!!」
一応、先ほどの店員に声を掛けて、捕まる前にと全力疾走をきめる。
そんなに足は早くないけど、咄嗟のことなら対応できまい。
五千円…。
五千円もあれば、2週間ちょっとの食費くらいにはなるだろうか…。
というか、松田サンも一体どこに行ったの?
「あぁ、もう疲れた!」
考えるのだって、得意じゃないし。
赤い糸だって、幽霊だって、そんな訳のわかんないもの見たくてみてるわけじゃないのに。
生まれてこの方、優等生とまではいかなくてもまじめに生きてきたつもりなのに。
本当に、ついてなさすぎる。
息が切れて苦しくなって、ここまできたら大丈夫だろうと、たどり着いた古びたバス停の寂れた木製のベンチに腰掛ける。
所々剥がれてる塗装が、ささくれた木の棘が痛い。
「…大丈夫か?」
「…」
「おい、」
「…」
「おいってば、」
無視を決め込む。
大体、外で話しかけないでっていつも言ってるのに。
行儀が悪いと思いながらも、体育座りのように体を丸める。
ぎゅーっと縮こまるように、丸める。
「…その、なんだ?…悪かったな」
多分隣に座ったんだろう。
気配しか感じないけど。
「…うらぎりもの」
ボソッと呟いて、不満をもらす。
「裏切ってねーよ、昼時なのに誰も客いねぇのおかしいんじゃねーかって思って、外出たらよ、入り口の札クローズにしてあってよ…お前の部屋に置いてるものじゃねーと俺触れねぇし」
「…お客さんがいないから、なに?」
「アイツだって、多分他の客がいたらそっちに手まわさなきゃいけなくなるから、お前に構ってらんなくなるだろ?」
故意的だったんだ、やっぱり。
だったら、なおさら…
「…えん」
「あ?」
「五千円の出費は大きいよぅ…」
「なんの話だよ?」
「勝手に出された料理だったけど、お金払わないで店出て問題になったら嫌だから、五千円札置いてきたの」