第4章 よん
この人は、悪い人じゃないって一方的に知っている。
言うのも言わないのも都合が悪くて、どうしたらいいか全然決められない。
正直変わってほしいと思う。
この尋問について、
…誰か、変わって。
松田さん、座ってみてるんだったら、助けてくれたっていいのに。
そう懇願したとき、目の端でヒュルっと飛んで出口の方へ行った松田さんを捉えて。
逃げようとしてる、ずるい。
私の頭じゃ、うまく説明できるはずもないのに、置き去りにして。
「…そろそろ、答えてくれないか?」
無理です、むりむり!
絶対無理!
「あ、赤い糸って知ってますか?!」
バカ、今のはないだろ!私!
「赤い糸っていう、…お話があるんですけど、永遠を生きるゼロっていう主人公の話で、松田っていう男が出てくるんですけど、これがまぁ最低なテンパの男でして」
…いや、無理がありすぎるだろ。
「か、課題で!大学の課題で、その本を題材に制作課題があってですね、それで、いろいろ考えていて」
アワアワとしながら答える。
「…制作あんまり得意じゃなくて、考えてるうちにこう、煮詰まってしまって。お散歩してたんです。
それで、本当にたまたま」
嘘にウソを重ねる。
もう、頭が真っ白だ。
虚偽とか、詐欺とかで捕まってしまう?
やっぱり無理ゲーなの?
でも、本当のことを言ったところで、誰も信じてくれないでしょう?
「…あまりにも、」
そう呟いて、肩から手がどけられる。
あまりにも、…なに?
お粗末な言い訳に呆れたとか、
馬鹿とかいいたいのか、
馬鹿にしてるのかって、聞きたいのか。
チリンチリンとベルが鳴って、タイミングを見計らったようにお客さんが入ってきたお陰で、なんとかその威圧感から解放される。
彼にとって多分このやり取りは、他人に聞かれると色々と都合が悪いんだろう。
「いらっしゃいませ」
入ってきたお客さんに一つ、聞こえないほどの小さな舌打ちをして、私の前から去っていく。