第4章 よん
「あの、私頼んでない…んですけど」
「えぇ、当店は初めてとお見受け致しましたので、是非おススメメニューを提供させていただきたいと思いまして」
色も熱も感じないその目に、ひゅっと喉が鳴るのを感じる。
そういえば、時計は昼時を指しているのに…、私の他にお客さんも、彼以外に店員さんも見受けられない。
え、何コレ。ホラー?
「おい、ガチで気をつけろよ。コイツ、ヤル気だぜ」
元同期である松田サンが言うんだ。
説得力が違う。
「下手すりゃあ、俺のことバレるぞ」
そんなこと、
あっては行けない。
というかそもそも、松田サン自身だってこの状況を理解しているとは思えない。
我ながら、肝要なところはうまく隠していると思う。
…多分。
知られたらまずい。
親友であり、生前は同期だった男の運命の相手が、こんなふうに許嫁を未練たらしく現世に縛り付けているとしれれば、きっと私はどうにかされるに違いない。
それでも言おうあえて言おう。
ビジュアルのタイプは、松田さんより金髪蒼眼のあなたなんですよ。
気持ちもう少し澄んだ青の目でも好きなんですけど。
というか、許嫁っていうのは私たちが決めたことではなくて、神様が決めた許嫁ってことでだから!だから、…。だからなんだ?
誤魔化すための良策を考えてたらぐわんぐわんと視界が回り出して、松田サンが言うくらいの凄腕の同期をかわすって無理ゲーがすぎない?
そもそもゲームとかあんま得意じゃないんだよね。
などと冷静になろうとしてふと、背中に感じた気配にひゅっと喉が鳴る。
カウンターから出て、いつの間にか背後に回っていたゴリラさん。
………あ、怪しすぎて締められるヤツ?
「誤解です!全然、ゴリラとか思ってないですから!!」
「はい?」
口から咄嗟に出た言葉に、終わったと気づいたのは行儀悪くカウンター席のテーブルの方に胡座をかいた松田サンが肩を大きく揺らしていたから。
声抑えても無駄だぞ、爆笑してんの気付いてるんだからね?
「あー、えっと…」