第4章 よん
「…さっきの人声かけなくてよかったの?」
情けなくなって、思わず聞いてしまった。
「さっきのって?」
「だから、赤くてペシャンコの車に乗ってた人」
「ぺしゃんこ?」
「うすいやつ、お世話がかりの」
「…ぷっ、あはは!ペシャンコって、壊れた車かと思っただろーが。あれはマツダRX-7って言う」
松田サンが饒舌に語るのをBGMに、彼の名前が入ってる車に乗ってるなんて、女性の側だって相当心酔してるんじゃ無いかとムッとしてしまう。
別に、そこに対してなんの感情もないけど!
少し考え込んだあと、あぁ、と言ってサングラスを少し持ち上げて、青い目を覗かせて、グイッと顔を近づけてくる。
「やっぱり、お前妬いたんだろ」
可愛くない私はそこで、びっくりなどぜず返す。
「何で松田サンに嫉妬しなきゃいけないの」
ほんとは、びっくりしたけど。
…無駄に顔がいいから。
「んー、そうなのかと思っただけ」
ぷかぷかと漂いながら、なんか言ってる。
「人生経験的に?」
「へぇ…隅に置けないねぇ、松田サンも」
「なぁにがだよ」
「あんな綺麗な人がお世話してくれてたなら、」
"私じゃ物足りないんじゃ無いもんね?”
なんて言葉を、ハッとして、自分の内に秘める。
松田サンだって、私のことを自分で選んだわけじゃ無いのに、そんなこと言われたらそろそろ迷惑だろうに。
「…もっと素直にならないと、祟られちゃうよ」
「そんなん、打ち返してやるよ。つーか、俺が今祟る立場だからな。お前のことも祟ってやろーか?」
ひゅーどろどろと、迫ってくる。
「私だって、打ち負かしてやる」
「勝ちきな女は嫌いじゃねぇけど、祟り負かすってやべぇな」
松田サンに祟られるなら、本当はそれでもいいなんて。
我ながらこんな短期間で、松田サンに絆されてるなんてちょろすぎる。
そりゃ、守護霊に志願されるわけだ。
口悪いけど話すペースもよくて、何よりも、片時もそばに居て一緒に笑ってくれる。
そんなの、嫌いになる方が無理な話だって。
「そんなに私に妬いてほしいならさ、松田サンのこと色々教えてよ。BGMにするから」
「こないだから、俺はラジオじゃねぇってぇの。つーか、何でお前に妬いてもらって喜ぶと思うんだよ」
「…ご趣味は?」
「合コンかよ」