第4章 よん
大学の授業が終わる。
松田さんのおかげでいつぞやの課題は無事提出することができた。
…だいぶ前に。
暇を持て余しすぎて、悪戯したい気分の時以外話しかけて来ない松田サンが、「あ…」と声を漏らす。
「どうしたんですか?気になるものでも…」
その私の声に気づかないほど、熱い視線を向けたのは真っ赤な薄い車に乗り込んだ、髪の短い女性。
ふーん…
そう言うことかと、飲み込んだ言葉に性格の悪い私は、余裕のあるふりをして近くにあったベンチに腰掛ける。
松田サンがいくら誰かを想っていたって、私と繋がってる限りうまく行くはずないんだから。
…なんて、その前に彼は霊体だから、成仏できない限りこの糸が切れることなんて無いんだから。
赤い車に乗り込んだ女性は、車を発車させることはせず、だから私も必然的に視線を外さ無い松田サンに付き合って、もう暫くはここから動けないだろうと覚悟を決めた。
「おい」
また声をかけられたのは、松田サンを待つためにスマホで読み出した小説が、いいところまでいった頃。
その声に顔をあげると、どこか寂しそうにだけど吹っ切れたように笑った。
「帰るぞ」
それは、私のセリフだって。
アプリを閉じて、鞄へと仕舞う。
「松田サン、何を見てたの?」
本当は分かってたけど、私はやっぱりずるいのだ。
「お世話がかりの同僚」
あんなに熱く切ない視線をむけて、本当にそれだけ?
「お前の先輩なるかもしれないやつ」
「ますます分かりませんよ」
「俺の夢叶えるっつったろーが」
「夢…あー、警視総監ぶん殴るって言った物騒なやつ」
呟いてから、こんな白昼堂々こんなことを言うのは、危険思想の持ち主だと思われるかもしれないと飲み込む。
というか、空に向かって話してる私はやっぱり危険か。
「んなことよりさ、お前ほんとに友達も恋人も居ねーのな」
「全部、松田サンのせいですけど」
「どう言う意味だ、コラ」
「八つ当たりに決まってるじゃないですか」
「何でアンタに八つ当たりされなきゃいけないんだよ」
「美女に見惚れてたので」
「……………ヤキモチか?」
「自惚れもいい加減にしてくださいよ」
「へぇ…」
「何でもいいですけど、松田サンのせいでお腹空きました」